蒼風閑語

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邯鄲の夢

この欄ではすっかりお馴染みの“野上彌生子全集”(岩波書店)の中から、第十四巻『戯曲』を読了しました。

大正四年(1915年)から昭和二年(1927年)までの12年間に発表された戯曲の内11篇が収められた選集でしたが、長いもの短いもの、神話劇・時代劇・現代劇などを取り混ぜての収録なので、適度に目先が変わって読み飽きるという事がありません。

どれを取っても秀作揃いだったのですが中でも特に面白かったのは、大正九年(1920年)に雑誌『中央公論』誌上で発表されたという作品「邯鄲(かんたん)」でした。

誰もが知っている中国の故事「邯鄲の夢」をベースに、作者独自の視点を交えながら“人生観・死生観”といった普遍的なテーマを語った逸品。

お話自体は大変に有名なものなので、ここは『国語大辞典 第二版』(学習研究社)から語釈を引用しておく事にしましょう。

【かんたん‐の‐ゆめ】 邯鄲の夢

人生の栄枯盛衰のはかないことのたとえ。     〔語源〕 昔、中国の趙(ちょう)の都邯鄲(かんたん)で、盧生(ろせい)という若者が同士に枕を借りて寝たところ、次第に立身出世して金持ちになった夢をみたが、目がさめてみると寝る前に炊いていた黄梁(こうりょう)がまだ煮え終わらないくらいの短い時間であったという故事から。

ちなみに「黄梁(こうりょう)」というのは穀類の“大粟”の事で、そこから「邯鄲の夢」を「黄梁一炊(いっすい)の夢」などと言ったりもするそうです。

野上彌生子全小説 〈15〉 戯曲

野上彌生子全小説 〈15〉 戯曲