蒼風閑語

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森の下の渓流

ここではすっかりお馴染みとなっている“野上彌生子全集”(岩波書店)から、第八巻の『小説・八』と題された短編集を読了しました。

何と言っても当初のお目当ては有名な短編「哀しき少年」だったのですけれども、一旦読み始めてしまえばどの一編を取ってもまぁ面白いこと面白いこと。

全部で12の小説が収録されていたのですが、第5編に収められた「哀しき少年」から「ははき木の歌」「山姥」「明月」と続く辺りで醸し出される“不思議な明るさを持った寂寞感”には、しばし言葉を失ってしまった程。

そして何より強く印象に残ったのは、ここに収録されたショート・ストーリーはどれもそうなのですが、その深くしみじみとした余韻を残す“終わり方”の鮮やかさでした。

中でも思わず息を呑んでしまったのは第7編「山姥」のエンディング。主人公が眠りに落ちる瞬間を描いているのですが、こんな書き表し方もあるのだなぁ・・・と、改めて日本語による表現の奥深さに触れる思いがしたのでした。

優れた文学作品から“結文だけを抜き出して引用する”などという無粋はしたくないので、もし図書館や古書店で本書を手にする機会があれば、是非是非一度目を通してみて下さい。