蒼風閑語

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私の中国旅行

お馴染み“野上彌生子全集”(岩波書店)の中から第十五巻、『紀行.一』と題された一冊を読了しました。

収録されていたのは昭和2年(1927)に発表された「みちのくの旅」、続いて昭和11年(1936)の「台湾」、そして昭和34年(1959)に岩波新書として刊行された「私の中国旅行」という3篇。

最後に収められていた「私の中国旅行」のみ戦後の作品という事で、仮名遣いが現在と同じものになっていたのが何となく新鮮な感じでしたが、質・量併せて最も読み応えがあったのもこの作品でした。

先に読み終えた第十五・十六巻の『欧米の旅』と同様、この著者の書く紀行文は本当に視線が自由で柔らかくて、しかも感情の動きが女性らしく素直で細やかで、その上文章に独特のリズムがあって軽快で、読んでいておよそ“滞(とどこお)る”ところがありません。

使われている語彙の中には結構難易度の高いものも含まれているのですが、それよりも語り口のスムーズさとスピード感の方が数段優っていて、判らないコトバをそのまま丸呑みにしてでも先へ読み進みたくなる吸引力は、まさに「強力」と言って良いものです。

さて本書に引き続いては、第十八~二十三巻までを占める『評論・随筆』集に、いよいよ手を付ける事にしましょう。・・・あぁ、モチロンいくつかの『小説』についても同時進行で。