だれが原子をみたか
一ヶ月程前に神保町の理工書専門店で買い求めた、江沢洋氏1976年の著作『だれが原子をみたか』(岩波書店)を再読しました。
ブラウン運動の簡単な紹介を話のマクラにして、古代ギリシャの原子論から真空の発見、気体構造を巡る論争から気体分子運動論へと筆を進め、最後に再び原子のブラウン運動を取り上げてその写真を紹介する。
全300ページからなる本文の文字通り最後のページで、「さあ、これがブラウン運動によって動く原子の姿です。いま原子をみたのは、だれでもなく“あなた”なのです。」と宣言してみせる細部まで考え抜かれた構成は、再読で結末が判っていてもスリリングです。
また実験の模様を伝える記述に写真も含めてかなりの紙幅を割いている点も、本書の内容を個性的にしている大きなファクターだと感じられます。
なぜ、何のために実験をするのか。またどの様に実験を行い、観測をするのか。そして結果をいかにデータ化し、検証に役立てるのか・・・そんな事が独特の口調で判り易く語られて行くさまは、まるでよく出来た科学番組でも観ている様でした。
自然科学というものは、仮説と検証の“果てし無い反復”の中でこそ発展して来たのであって、理論と実験のどちらが欠けてもそれは「科学」とは呼ばれないのだ・・・という真理をここまで明快に語りおおせている本は、実はそう多くは無い気がします。
本来は子供向けに書かれたものですが、年齢を問わずあらゆる人に読む価値のある稀有な一冊だと、今回改めて感じ入ったのでした。