蒼風閑語

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いろいろな幾何学

しばらく前にネット古書店で見つけて買い求めていた、小松醇郎氏1977年の著作『いろいろな幾何学』(岩波新書)を読了しました。

「あとがき」を含めても全体で200ページ足らずの小冊であるにもかかわらず、盛り込まれているトピックはかなり広範に渡っています。

全体は大きく2つの部分に分かれており、前篇がユークリッド幾何・アフィン幾何・射影幾何・非ユークリッド幾何、後篇全てが広義のトポロジーについての解説に充てられていました。

特に前篇においてほとんど数式を使わずに幾何構造の拡大を試みる手法は、言葉と図の使い方が巧みなせいか読んでいてもなかなかにスリリング。

前篇を読み終えれば、射影幾何の特別な形がアフィン幾何で、アフィン幾何のそのまた特別な形がユークリッド幾何なのだということを、まるで手に取る様にハッキリと認識する事が出来ます。

この前篇のテーマは、文字通り「射影幾何学はすべての幾何学である」(Projective geometry is all geometry)というコトバを裏付ける為の作業・・・という事になるでしょうか。

そして後篇はぐっと内容の抽象度が上がると共に、前篇では著者自らが「禁じ手」としていた数式がどんどんと出て来ますが、そのおかげで却って論旨が明快になり結果的に記述の見通しを良くする事に成功している様です。

一般向けの前半とややアカデミックな香りのする後半、共に著者の力量の大きさを否が応でも感じさせる、イマドキは滅多に見られない“ホネのある”新書だと思います。