蒼風閑語

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目で見る高次元の世界

一ヶ月ばかり前に神保町の古書店で買い求めていた、トマス・F・バンチョフ著/永田雅宜・橋爪道彦両氏の共訳による『目で見る高次元の世界』(東京化学同人)を読了しました。

“Scientific American Library” という一連のシリーズからの翻訳で、まるで絵本の様に大きなサイズでシッカリした造作のハードカバー版です。

高次元幾何という、なかなかに明確なイメージを捉え難いトピックを扱ったテキストでありながら、平易な解説文と美しいカラー図版が直観的な理解を可能にしていました。

講義の出発点としてまずエドウィン・A・アボット1884年の著作『フラットランド』の紹介から始めているのも特徴的で、このイントロが“次元とは何か”という深遠なテーマに取り組む最初のハードルをうんと低くするのに一役買っていた様です。

グラフィックスを手がかりに高次元幾何へのイメージを膨らませてみよう・・・という本書のソフトなコンセプトが功を奏しているのでしょう、一度読み始めると最後まで本当に楽しく読み切る事が出来ました。

もう少し詳しく調べてみたいと思う部分については、巻末に添えられている「さらに勉強するために」が役立ちそう。古今の研究書のみならず高次元の世界を題材にしたフィクションまで紹介されており、硬軟取り混ぜた優秀なブック・ガイドとなっています。

解説をジックリと読み込むも良し、図版だけをボンヤリと眺めるも良し、様々な愉しみ方が可能な“高次元幾何学への手引書”ではないかと思います。