博士の愛した数式
先日よりスペイン語版を読み始めたのでオリジナル・テキストを対照させてみようと、小川洋子さん2001年の作品『博士の愛した数式』(新潮文庫)を書架から引っ張り出してみました。
当然スペイン語ヴァージョンを読む際の補助にするつもりで取り出したのですけれども、最初の数ページを読んだらヤッパリ面白くて、そのまま最後まで一息に読み切ってしまいました。
思えば最初の刊行時に単行本で読み、2年後に文庫化された時に再び読み、更に映画化された作品もDVDで愉しみ、今回はまたぞろ翻訳版に手を出しているのですから、何だか既に“因縁浅からぬ関係”と言っても良さそうな一冊です。
題材として扱われている数論と野球のトピックが面白いのは勿論の事なのですが、何よりも本書が持っているフィクションとしての完成度の高さが再読に向かわせる大きな要因ではないかと思っています。
尚、最終章の第11章で未亡人が「義弟は、あなたを覚えることは一生できません。けれど私のことは、一生忘れません」という件(くだり)は、今度の再読中最も重みを感じた一言でした。
数論と分かち難く結び付いている「無限」の概念に「時間」の感覚を重ね合わせ、それを限りある人の生に当て嵌めてみるとこんなに面白い小説になりました・・・という事になるのでしょうか。
本来の目論見から外れて作品自体をすっかり愉しんでしまった3度めの再読だったのでした。