蒼風閑語

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スペイン語とつきあう本

寿里順平氏1998年の著作『スペイン語とつきあう本』(東洋書店)を読了しました。

サブタイトルに「寿里順平の辛口語学エッセー」とある通り、かなり歯に衣着せぬ感じの警句と嘆息と皮肉、そして寿里氏のスペイン語に対する深い愛情が感じられる異色のエッセイ集でした。

著者は巻頭の「はしがき」に

 “つまるところ、外国語習得の敵は「教室」という集団性ではないかと思うのです。「赤信号、みんなで渡れば怖くない」というのは事実ですが、集団で習った外国語を、同じ場所で一斉に使うケースは皆無です。 (中略) 本書を通じて、外国語を習うのも使うのも「1人」がいちばん自然な姿であることを自覚していただければ幸いです。”

と記して、本書が決して口当たりの良い語学エッセイではないことを示唆していましたが、読んでみると正にその通り。大学や学生や語学業界全般に向けて繰り出される文章のキレは、舌鋒鋭く文字通り快刀乱麻を断つ・・・といった風情。

一方でスペインの風俗やスペイン語そのものを語る時は豊富な知識を駆使して蘊蓄を傾け、語学的な興味や歴史的な見地といった面からも凡そ読者を飽きさせるという事がありません。

文章自体は文学者風に洗練されたものではなく、研究者然としたいっそ朴訥と言っても良い位のものなのですが、アツい筆致で一気に読ませてしまう感じでしょうか。

先に読み終えた木村榮一氏の『ドン・キホーテの独り言』(岩波書店)と比べて、翻訳者と教育者でこんなにも言葉に対するスタンスが違うものか・・・という事を改めて認識させて貰えた点においても、とても有意な読書体験となりました。

スペイン語とつきあう本―寿里順平の辛口語学エッセー

スペイン語とつきあう本―寿里順平の辛口語学エッセー