蒼風閑語

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魚河岸ものがたり

森田誠吾氏1985年の直木賞受賞作品『魚河岸ものがたり』(新潮社)を再読しました。

きっかけは先週末の神保町歩き。馴染みのお店の一軒で均一台の中に、単行本が差し込まれていたのを見つけたのでした。

本書を初めて読了したのは後に文庫化されたものだったので、まずは安野光雅氏による味わい深い装丁に惹き付けられ、見とれること暫し。

奥付を開いてみると昭和61(1986)年月5日の第5刷となっていますから、直木賞受賞翌年の増刷分という事になります。

20日の当欄に「50ページ程を読んだところ」と書いておきましたが、一旦読み始めると結末が判っていてもその面白さにグイグイ引きこまれ、あれよという間に読み終えてしまいました。

連綿と続く人と時の流れが儚くもあり悠久でもあり、人の情は儚いが故に一瞬の輝きが殊更に力強くまた貴重なのだと。

本書の作風としての真骨頂は、時系列に拘らず短いエピソードを積み重ねる事によって生まれる「連綿感」に尽きると思うのですが、それにしても力強い。

全272ページと決して大長編という規模ではないのですが、読後には大河ドラマを観終わった後のような充足感が残ります。

やはり名作は何度読んでも面白い・・・というより、むしろ「再読に耐え得る」ものこそが名作と呼ばれるのでしょう。

読み終えたばかりで妙な話ではあるのですが、次の再読の機会が今からもう楽しみ、といった不思議な気分にとらわれているところです。

魚河岸ものがたり

魚河岸ものがたり