蒼風閑語

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大河内正敏と理化学研究所

宮田親平氏1983年の著作を文庫化した、『「科学者の楽園」をつくった男 ー 大河内正敏理化学研究所』(河出文庫)を読了しました。

現在いろんなイミで話題の渦中にある理化学研究所ですが、本書はその黎明期から最盛期に至るまでの道程を牽引した3代目所長、大河内正敏氏を描いたドキュメンタリー。

全体の構成は大きく15の章に分かれた本文と「参考・引用文献+謝辞」「文庫版あとがき」「解説」から成っており、総計で407ページというなかなか読み応えのあるボリュームでした。

当時留学中の文豪・夏目漱石とドイツからの帰国途中の化学者・池田菊苗のロンドンでの邂逅という意表を突くシチュエイションから始まって、当時の時代背景やエピソードを織りまぜながら「科学者の楽園」たる理研の辿った歩みが描かれて行きます。

やや硬質ながら明快な文章で最後まで一息に読み進める事が出来ましたが、全てを読み終えてみると全体的に少しばかり散漫だったのかなぁ・・・という印象もありました。

本書の主人公である大河内氏が登場するのが80ページ程も進んだ第4章から、というのもまだるっこしい感じだし、第9章で仁科・湯川・朝永といった物理学のスター達が登場したあとは、最後の第15章で人物像が総括されるところまで殆ど出番がありません。

サイド・ストーリーを充実させる事によって大河内氏の成し遂げた仕事の大きさを際立たせようとした結果なのだろうと推測するのですけれども、本来添え物になるべきエピソードがあまりに「面白過ぎる」というか何というか・・・。

もっと短くてもいいから大河内氏自身のストーリーを前面に押し出していれば、更に更にインパクトの強いノンフィクションになっていたんじゃないかなぁ・・・などと、シロウトなりに余計な事を考えてみたりしたのでした。

ただし各章に散りばめられた個々のエピソードについては、「日本近代科学史」としても愉しむ事が出来るくらい内容豊富で一気に読ませます。面白いので是非御一読を。