蒼風閑語

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ダメ出しの力

繁桝江里さんが今年の3月に上梓なさった近著『ダメ出しの力 ― 職場から友人・知人、夫婦関係まで』(中公新書)を読了しました。

「ダメ出し」の定義・・・改まって考えてみた事もありませんでしたけれども、本書巻頭に収められている「序章」にはこうあります。

 “私は、専門的な論文では「ダメ出し」という日常語は使わず、「ネガティブ・フィードバック」という用語を使っています。相手に対し否定的な評価を返すこと、つまり、相手の悪いところを指摘することが、本書におけるダメ出しの定義になります。”

とてもシンプルな定義ですが、まずはここがスタートラインです。要は瑣末的な「揚げ足取り」や感情的な「反発」ではなく、あくまでも建設的な批評精神に基づくものが「ダメ出し」である・・・という事になるでしょうか。

本書は序章+4つの章+終章という構成になっており、各章のタイトルは序章「ダメ出しとは何か」、第1章「職場でいかに活かすか」、第2章「友人と知人、目上・対等・目下の人」、第3章「夫婦関係には何が起こるか」、第4章「言う側と言われる側のズレ」、そして終章「力を引き出すには」という流れ。

これら各々のシーン毎に、社会心理学の立場から「効果的なダメ出し」の手法を考察していく・・・というのが基本的なスタイルなのですけれども、世に数多(あまた)ある類似の「自己啓発本」とは一線を画したアカデミックな内容。

それだけに、安易な「こうすれば良い」的なノウハウを求めている読者は肩透かしを食らってしまうかも知れません。柔らかい筆致ながら本書の要諦が、考察し、検証し、解説するという学術的な手法に基づいているからなのでしょう。

むしろ「ダメ出し」という身近なキーワードに材を取った社会心理学とコミュニケーション論へ向けての易しい手引書・・・といった位置付けが適切なのかも知れませんね。

本書からより良いダメ出しを出すためのヒントを得て、後は自分のアタマで考えて現実に即したアレンジを施す事が出来れば、まさに「この上ない一冊」となるのではないでしょうか。