数学という学問Ⅰ
志賀浩二氏2011年の著作『数学という学問Ⅰ― 概念を探る』(ちくま学芸文庫)を読了しました。
「数直線と実数」「変数と関数」「対数と小数」「巾級数」「微分積分」といった代表的な数学概念の変遷と発展の歴史を、シンプルな筆致で綴った概説書です。
無論同文庫の中では既に一大ストリームを形成している “Math&Scienceシリーズ” に含まれる一冊ですので、最小限に抑えられているとはいえ数式は普通に出て来ます。
ただしあくまでも「こういうものですよ」と簡単に例示するだけのものが大半以上を占めているので、数式部分が完全にフォロー出来なくとも全体の理解にはあまり支障が無いのではないかと。
また本文中には小さいながらも紙幅を惜しまず多数の図版が挿入されており、やや難解な概念について直観的な理解を容易にするための工夫が随所に凝らされています。
これは代表作である “数学30講シリーズ”(朝倉書店)を始めとして、まさに「膨大な」量の著作を手掛ける中で培われて来た、著者独自のノウハウの賜物と言って良いのでしょう。
さて、本書は大きく2部構成になっており、第1部〈数学の基礎概念〉は第1章「数」、第2章「数直線と実数」、第3章「変数と関数」まで。
そして続く第2部〈概念の誕生と数学の流れ〉が第4章「数学の概念について」、第5章「数の働き」、第6章「対数と小数」、第7章「巾級数」、第8章「微分積分の誕生」、第9章「無限の登場」、第10章「コーシーの『解析教程』」という流れ。
これらの中で個人的に最も興味深かったものといえば、やはり最後の2章におけるオイラーとコーシーに関する記述でしょうか。
微積分を現在使われている様な形に整備した功労者でありながら、大学では「講義内容があまりに難し過ぎる」と学生のみならず学校当局の側からも非難を受けていたというコーシー。
良い研究者が必ずしも良い教育者とはならないのは古今東西を問わない普遍的な問題なのだなぁ・・・などとシミジミもしますが、もちろん数学的な内容としてもここが最も面白いところでした。
ともあれ、本書は全3巻が既に完結しているので、折を見て残りの2巻を愉しんでみたいなと思っているところです。