蒼風閑語

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ニックとグリマング

フィリップ・K・ディック著/菊池誠氏の訳による1991年のジュブナイル『ニックとグリマング』(筑摩書房)を読了しました。

お話の背景になっているのは、こんな風になってしまっている地球です。

“もうずっと以前から地球は人であふれかえっていました。それでなくても多すぎるというのに、年を追うごとに人間がどんどん増えていきます。家を建てて住むなんて、もうだれにもできません。ペットを飼うのも一軒家に住むのも、今では許されないことなのです。”

そんな状況のもと制定された「ペット取締法」によって飼い猫のホレースを手放さなくてはならなくなったニックと両親は、地球に見切りをつけて未開の「農夫の星」へと移住する事になります。

しかしその星ではウーブ、ワージ、スピッドル、オトウサンモドキ、トロープ、ナンク、フクセイといった原住民が、「闖入者」たるグリマングに懐柔されたり反抗したりと派閥を構成しながら長い間争っていたのでした。

そして、はるばる地球から到着したその日から彼らの争いに巻き込まれてしまったニックと両親と猫のホレース。さあその運命は?!・・・というのがお話の粗筋。

さすがにジュブナイルだけあってストーリーはテンポ良く進み、ポール・ディマイヤーによる挿画も素晴らしくキュートなのですけれどもそこはさすがに PKD 。明に暗に寓意が散りばめられ、しようと思えばいくらでも深読み可能な作品世界となっていました。

体裁としては小さめの作品でありながら、PKD のエッセンスがググっと凝縮されたうえで巧みに編み込まれている「傑作」の一つなんじゃないかなぁ・・・と読後にシミジミ感じ入っていた次第。

ただ残念なことに本書は現在「出版社品切れ中」。挿画の素晴らしさも損なわない形での復刊を強く望んでおきたい一冊です。

ニックとグリマング

ニックとグリマング