蒼風閑語

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俳句的生活

長谷川櫂氏2004年の著作『俳句的生活』(中公新書)を読了しました。

全体は12の章に分かれており、内訳は第一章「切る」、第二章「生かす」、第三章「取り合わせ」、第四章「面影」、第五章「捨てる」、第六章「庵」、第七章「時間」、第八章「習う」、第九章「友」、第十章「俳」、第十一章「平気」、第十二章「老い」という流れ。

恐らく俳諧を嗜(たしな)まれる方なら、各章のタイトルを見ただけである程度何が書かれているのか判るのではないかと思うのですけれども、そうでない我々はこれらのタイトルから内容をあれこれ推察してみたくなる程のシンプルさです。

第一章は切れ字、第二章はデフォルメ、第三章は言葉と言葉の組み合わせの妙、第四章は俳句のイデア・・・など、最初の数節を読んだだけではタイトルと本文の繋がりが判然としないものも多く、中には結語近くまで読み進めたところでようやく「なるほど」と納得した章も。

しかし読み続けている内に、具体的な句作のノウハウなどは一切述べられていないにも拘らず、本書は著者が読者に向けて俳句を創作する上での「かんどころ」というか「ツボ」みたいなものを披露・教示しているのだという事が段々と判って来ます。

そうするとこの本を読む愉しみは俄然高まって、あとはもう一息に最後まで読み下してしまいました。

第八章「習う」辺りから最終章に至るまでのくだりは特に圧巻で、詩歌全般から用例を引きながら俳句の本質的な部分を巧みに捉えて見せる、著者一流の論法を充分に味わう事が出来るのではないかと。

とはいえ決してアカデミズムに偏った小難しい記述にはならず、読み物としても愉しめる内容に仕上げられているのは、ひとえに長谷川氏の執筆センスによるものなのでしょう。

読み終えると「一句捻ってみるかな」と思わずにはいられなくなりそうな、優れた俳諧への手引書になっているのではないかと思います。

俳句的生活 (中公新書)

俳句的生活 (中公新書)