蒼風閑語

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多様化世界

フリーマン・ダイソン著/鎮目恭夫氏の訳による『多様化世界 ― 生命と技術と政治』(みすず書房)を読了しました。

本書の元となったギフォード講演が開かれたのは1985年、原書である "Infinite in All Directions" (Harper & Row) の発刊が1988年、この邦訳書の初版刊行は2年後の1990年ですから既に四半世紀程も前の著作という事になります。

しかし読み終えてみて改めて感じたのは、社会的なトピックを扱った部分での国際情勢や国名表記などにやや時代を感じさせる記述があるものの、書かれている内容自体は極めて本質的・普遍的なもので些かも古びてはいないという事実でした。

全体は実際に行われた講演のカリキュラムに沿って大きく2部構成の形を採っており、第Ⅰ部は “宇宙における生命”、第Ⅱ部が “人間と機械” という大テーマを軸として論旨が展開されて行きます。

第Ⅰ部は宇宙論生命科学というある意味先鋭的な分野への言及が基調となっており、科学と宗教の歴史的な関わりを背景としながら宇宙の起源・生命の多様性と進化・未来と終末へ向けての提言が披露される形式。

続く第Ⅱ部では思索の対象がより現実的なトピックとなり、技術と政治が主なテーマとしてセレクトされていました。技術の平和利用と経済的進歩と科学的探求のバランスをどう取っていくべきか、核兵器のもたらす脅威と宇宙開発競争をふまえての未来に対するヴィジョンを語る。

・・・扱われるテーマは多岐に渡り、時としてダイソン氏独自の理論展開に足元をすくわれそうになるところもありましたが、やや難解な部分は自ら他書を当たり想像を巡らしながら時間を掛けて読み進むのに加え、巻末に添付されていた鎮目氏による長文の付録と注記に理解を助けられる部分が多かった事を申し添えておきましょう。

内容的にも分量的にもかなり読み応えのある一冊でしたが、数年前に読み終えた同氏2008年の著作『叛逆としての科学』(みすず書房)と同様、とても知的興奮度の高い読書体験となりました。

多様化世界―生命と技術と政治

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叛逆としての科学―本を語り、文化を読む22章

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