蒼風閑語

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確率論と私

伊藤清氏の『確率論と私』(岩波書店)を読了しました。

著者の没後2010年に編まれたエッセイ集で、シンプルなタイトル通り確率論にまつわるショート・ピースが20編。

「初出一覧」によると、『数学セミナー』(日本評論社)や『数理科学』(サイエンス社)といった学術誌に掲載された文章のみならず『岩波講座』添付の「月報」に寄せた貴重な原稿なども選ばれており、数学好きにも読み応え充分な内容となっていました。

全体は大きく6つの章から成っており、内訳は第Ⅰ章「忘れられない言葉」、第Ⅱ章「数学の二つの柱」、第Ⅲ章「数学の楽しみ」、第Ⅳ章「確率論とは何だろうか」、第Ⅴ章「確率論と歩いた六十年」、第Ⅵ章「思い出」という流れ。

巻末には上記「初出一覧」と御息女の児島計子さんによる「あとがきにかえて」と「伊藤清略年譜」、更に〈付録〉として「確率微分方程式 ― 生い立ちと展開」が横組で追加されています。

全編に亘って伊藤氏の研究者・教育者としての含蓄溢れる文章があくまでも平易な言葉で綴られており、どこから読み始めても愉しめる一冊となっていました。

個人的に印象深かったのは件(くだん)の月報への寄稿を集めた第Ⅲ章「数学の楽しみ」、それに恩師と同僚を回想し哀惜に満ちた筆致で語った第Ⅵ章「思い出」でしょうか。

そうそう、第Ⅳ章「確率論とは何だろうか」所収の “コルモゴロフの数学観と業績” の中に、コルモゴロフ氏の考える数学への3つの適性が引かれていましたので、ここに孫引きしておく事にしましょう。

1.アルゴリズムの能力。複雑な式の上手な変形、標準的な方法では解けない方程式を巧妙に解くことの能力をさす(沢山の定理や公式を記憶していても駄目である)。

2.幾何学的直観。抽象的なことでも、頭の中で、目に見えるように描いて考えられること。

3.一歩、一歩論理的に推論する能力。たとえば数学的帰納法を正しく適用することができること。

確率論と私

確率論と私