蒼風閑語

ll_bluewind_llのひねもすのたりのたり

エル・アレフ

ホルヘ・ルイス・ボルヘス著/木村榮一氏の訳による2005年の著作『エル・アレフ』(平凡社ライブラリー)を読了しました。

全225ページの中に17のストーリーと小さな「結び」が収められた短篇集なのですが、ボルヘスの持つ独特なテイストがギュギュッと濃縮された様な、重厚かつ不思議な感触に溢れた一冊でした。

収録されているどの作品から読み始めても、古今東西の文学作品からの引用や現代社会への風刺などがタップリと盛り込まれており、小難しく深読みしようと思えばいくらでも出来そうな世界観。

もちろんそういったアカデミックな読み方にも耐え得るだけの力を持った作品だという事なのですけれども、実はもっとスッキリ虚心坦懐な心持ちでひたすら素直に読み進めても充分に愉しめる作品集だと思います。

場所とか時間とかいったものを割と簡単に飛び越えてしまうのが特色の一つなので、ストーリーを追いかけようとするのではなくむしろ文章から受けるイメージをトレースして行く。丁度ショート・フィルムの映像作品を眺める様な案配です。

この手の作品はお話や人間関係の整合性みたいなもの「だけ」に拘泥しているとまず愉しめないだろうな・・・という事は、パラパラとページを捲って軽く一読してみただけでも明らかですものね。

個人的なお気に入りとしては、ホセ・エルナンデスの『マルティン・フィエロ』に材を求めた「タデオ・イシドロ・クルスの伝記」、どうしてもブラームスの曲を思い浮かべてしまう「ドイツ鎮魂歌」、とても短いのに強烈な印象を残す「二人の王と二つの迷宮」辺りでしょうか。

そうそう。巻末に収められていた木村榮一氏による「訳者解説」も、非常に読み応えのある力作であった事を申し添えておきましょう。

エル・アレフ (平凡社ライブラリー)

エル・アレフ (平凡社ライブラリー)