蒼風閑語

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ジャンプ

1991年のノーベル文学賞受賞者であるナディン・ゴーディマ著/柳沢由実子訳による『ジャンプ』(岩波文庫)を読了しました。

表紙に記載されているリード文によると、

多くの作家や詩人が国外に亡命したり獄中死などの悲惨な最期を遂げるなか、南アフリカに踏みとどまって、白人の立場から人種差別批判の作品を発表しつづけた南アフリカノーベル賞作家ナディン・ゴーディマ(1923-2014)。

という事ですから、昨年の逝去を受けての文庫化でしょうか。

本書には表題作を併せて12篇の短篇作品が収録されていました。参考迄に各タイトルを列挙しておくと、

「隠れ家」「むかし、あるところに」「究極のサファリ」「父の祖国」「幸せの星の下に生まれ」「銃が暴発する寸前」「家庭」「旅の終わり」「どんな夢を見ていたんだい?」「体力づくり」「釈放」「ジャンプ」。

アパルトヘイトの全廃が法的に決定した後の南アフリカを舞台にしており、全篇を貫いている基本的なトーンは、一つの体制が崩壊し新たな社会の枠組みが出来上がりつつある時期の「不安定感」。

私達が各種メディアの報道で知るところとなっている南アフリカアパルトヘイトに対するイメージは、あくまでも外から見た「他者目線」によるものです。

本書はフィクションの立場から、あからさまな人種差別が “日常としてある” 風景を描く事により、擬似的ながらアパルトヘイトという社会制度の本質的な部分を浮かび上がらせることに成功しているのではないかと思います。

差別をする人とされる人、批判する人と助長する人、戦う人と犠牲になる人、逃げる人とかくまう人、荒ぶる人と恐れる人・・・。

どれも同じ「人」のする行為でありながら、立場と思惑が異なればお互いを理解するのが全く不可能に思える程の差異が生じてしまう不条理。

差別意識を解消もしくは回避する為に、相手の心情を慮(おもんぱか)る事が出来るだけの「想像力」が必須であるとするならば、まず本書からその手ほどきを受けるというのは実際悪くない選択肢かも知れません。

・・・どうもあまり上手く表現出来なくてもどかしい限りなのですけれども、シンプルに小説として愉しむにも文字通り “一級の面白さ” なので、是非御一読を。

ジャンプ 他十一篇 (岩波文庫)

ジャンプ 他十一篇 (岩波文庫)