蒼風閑語

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創造者

ホルヘ・ルイス・ボルヘス著/鼓直(つづみ・ただし)氏の訳による『創造者』(岩波文庫)を読了しました。

1960年に刊行されたボルヘス2番目の詩集の日本語版で、作者自身による自己評価の最も高い作品としても知られています。

50の作品からなる本書は詩と散文が入り混じったボルヘス得意の文体。私達読者も出来るだけ予断を排した “真っさらな心持ち” で文章に対峙したいところでしょうか。

それにしてもこの「稀代の碩学」が紡ぎ出す言葉の連なりは、どこまで行っても徹頭徹尾個性的にして独特です。

隣り合った個々の作品の間にはそれほど強い関連性を感じないのに、全体を通読するとひと繋がりの連作を読み上げた様なある種の “統一されたイメージ” が強く残るのはボルヘスの詩集に共通する特徴。

それはもちろんボルヘス自身が持っている強靭な世界観に由来するものなのでしょうけれども、加えて翻訳者の鼓氏による日本語のセレクションの妙に依る部分も大きいのかも知れません。

同氏が腕によりをかけた訳文にはかなり難読かつ硬質な漢語が頻出するので、読書の座右に漢和字典は必携。「倦厭」「散佚」「靄」「玻璃」「晦渋」「剽悍」「管掌」「繊雅」とか・・・全て “ルビ無し” なのでなかなか大変です。

個人的には北欧神話に材を採った「ラグナレク」が一番のお気に入り。最後の一文によってもたらされる即物性はかなり衝撃的なユーモアだと思いますねぇ。

・・・さて、次は何を読みましょうか。ボルヘスだと『続審問』(岩波文庫)辺りに移ってみたいところですが、ちょっと軽めの読み物でアタマを休めてみようかな。

創造者 (岩波文庫)

創造者 (岩波文庫)