蒼風閑語

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神保町の記事 4

昨日の『朝日新聞』朝刊第2東京面の連載記事「神保町:本の街」は早くも最終回。主役になっていたのは本の「作り手」である出版社です。

毎回愉しませて貰った書き出しですが、今回はこんな風でした。

神保町交差点にほど近い一角。出版大手「小学館」の本社ビルの建設が進む。集英社祥伝社などでつくる「一ツ橋グループ」の盟主だ。

 そうそう、ビル取り壊しの前にはしばらくの間、玄関ロビーをギャラリーの様に開放したりしていましたっけ。そしてその小学館で、漫画家の浦沢直樹氏を発掘したのが編集者の長崎尚志氏だったのだそうです。

浦沢さんの創作活動に長崎さんが深くかかわっていることはファンにはよく知られる。「MASTERキートン」の主人公・キートンが、英軍特殊空挺部隊出身で考古学者という設定は、神保町がきっかけになった。

何でも連載前、作品のキャラクター設定に悩んでいた時に神保町の新刊書店で売り場を眺めてみると、ちょうど軍事関係と考古学関連の書籍が多く目に付いたのだとか。思わず「え?」と言いたくなるシンプルさですが、意外と物事の “取っ掛かり” というのはこうしたものかも知れません。

 さて、その長崎氏が高く評価なさっているのが、同じ小学館西原理恵子さんを見出した後輩の八巻和弘氏でした。

新米編集者はベテラン漫画家を担当して経験を積むのが常だ。ところが八巻さんは1カ月足らずで免除された。ライバル誌の漫画家を引き抜き、立てた企画が通ったためだ。

この八巻氏は御自身が審査委員を務める新人漫画賞などで有望な作家を見付けると、自社他社の別に拘らずデビューに向けて尽力されるのだそうです。「たとえよそで成功しても、それで漫画界が盛り上がればいい」という大局的な視点がやはり大物然としています。

ところでこの街に出版社は一体どれくらいあるのでしょう。考えてみた事もありませんでしたが記事の後半にはこんな記述が。

神保町周辺に出版社はいくつあるのか――。神保町交差点の半径約750メートル内を電話帳で調べると約220件あった。密集度では全国トップだろう。

わずか1.5キロ程の範囲の中に200件を超える出版社がひしめき合っているのですねぇ・・・ホントに文字通りの「本の街」です。

連載の最後を締め括っていた「信山社」会長の柴田信氏による言葉が印象的でした。本を作る人・売る人・読む人の3つが揃って初めて業界全体が活性化しますものね。

「本の街として完成されているが、イベントなどで関心を高め続ける努力が必要だ。街が元気になることで出版界も元気になる」

・・・いやぁ、それにしても愉しい企画でした。1ヶ月間の連載を読み終えて、ますます神保町のことが好きになって来ましたよ。