蒼風閑語

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謎ときガルシア=マルケス

木村榮一氏の近著『謎ときガルシア=マルケス』(新潮選書)を読了しました。

同氏の翻訳以外の著作を読むのは『ラテンアメリカ十大小説』(岩波新書)、『翻訳に遊ぶ』、『ドン・キホーテの独り言』(岩波書店)に続いて4冊目になります。

今回はテーマを単一の作家に絞っての成書という事になるのですが、現在マルケスを作家論・作品論の両面から語るのにこれほど相応しい人物はいらっしゃらないのではないかと。

全体は14の章から構成されており、第1章〜第3章までがスペインおよびラテンアメリカ諸国の歴史と文学史的なトピックに関する解説のパート、続く第4章〜第8章がマルケスのパーソナリティを作家論的に論じた考察の部分で、残る第9章〜第14章までが個別の作品論となっていました。

どのパートも大変興味深い記述に満ち溢れており、一旦読み始めると本を置く暇も無い程だったのですけれども、やはり一番面白く読み進めたのは最後の作品論的な部分でしょうか。

採り上げられているのは『百年の孤独』『族長の秋』『予告された殺人の記録』『コレラの時代の愛』『迷宮の将軍』、それに晩年の2冊という括りで『愛その他の悪霊について』と『わが悲しき娼婦たちの思い出』という7点。

どの解説もさすが木村氏と唸らされる緻密な筆致でありながら展開される論旨は明快そのもの。ラテンアメリカ文学がどういうものでマルケス作品がその中でどう位置付けられるのか・・・といったところから説き明かして下さるので作品論がいちいち「腑に落ちる」のですね。

モチロン作品解説が腑に落ちたからと言ってマルケスの作品そのものが腑に落ちる、という訳では無いのでしょうけれども・・・。

ともあれ、ラテンアメリカ文学全般を日本に紹介した翻訳の第一人者であると同時に、西和辞典の編纂に関わる教育者でもある木村氏の「面目躍如」と言えそうな、実に目の詰まった一冊と言えそうです。

謎ときガルシア=マルケス (新潮選書)

謎ときガルシア=マルケス (新潮選書)