蒼風閑語

ll_bluewind_llのひねもすのたりのたり

ボルヘスの地図帳

どうしても本の匂いが嗅ぎたくなって、少し時間は遅かったのですが神保町まで足を延ばしました。

靖国通りに到着したのは既に6時半の少し前。大方の古書店は店じまいを始める時刻ですから、今日覗いてみる事が出来るのは7時まで開けているお店です。

ものの数分で2つの店舗をまわり3つ目のお店だけは少しユックリ時間を取って、入り口付近にある自然科学・哲学・海外文学などの集まる一角を検分、何冊かを抜き出して手に取ってみます。

さすがに普段から行きつけているお店だけあって、読んでみたいなと思う本がすぐに数点ばかり。暫くためつすがめつしておいてから一冊を選んでレジに運びました。

ホルヘ・ルイス・ボルヘスが最晩年にマリア・コダーマ夫人と共に出掛けた旅行の数々。その行く先々で夫人の手によって撮り溜められた沢山の写真に、ボルヘス氏が文章を添えた共同作品集『アトラス』(現代思潮新社)です。

あとは手に入れたばかりの本を手に、これも行きつけにしているコーヒー・ショップへ足を運んで早速目を通すこと暫し。

マリア夫人が撮影した素朴なタッチの写真を眺めながらボルヘス氏の文章を味わい、溜息をついては新しい写真を眺め再び文章に引き込まれるという作業。

読み始めた時は「散文付きの写真集」というよりは「写真付きの散文集」といった趣だな・・・と感じていたのですけれども、ページを繰るにつれて双方の主従関係がどうも判然としなくなって来ました。

写真と散文は関係がある様でもあり、ない様でもあり。ボルヘス氏の文章がそれだけで独立して愉しめるのは当然の事ながら、写真があるとないでは全く受けるイメージが異なるだろうなと思わせられる章もあり、なかなか一筋縄では行きません。

作品自体がいろんな愉しみ方を許容している感じの、ちょっと不思議な本と出逢ってしまった如月の夜だったのでした。

アトラス―迷宮のボルヘス (^Etre・エートル叢書)

アトラス―迷宮のボルヘス (^Etre・エートル叢書)