蒼風閑語

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物質の世界

空を見ると今にも泣き出しそうで何だかもうひとつパッとしない空模様。こんな日は部屋にいて本や音楽に現(うつつ)を抜かすのが一番・・・という事で、木下是雄氏の『物質の世界―現代物理へのアプローチ』(培風館)を読了しました。

木下氏といえば『物理の散歩道』シリーズの‘ロゲルギスト.K’として、またロングセラー『理科系の作文技術』(中公新書)の著者としても有名ですが、本書は氏が学習院大学で行った一般課程での物理学講義を基にしたものだそうです。

では全体のアウトラインを「序章」の記述から抜書きしておきましょう。

 “1章「気体分子の運動」:真空の中を飛びかう気体分子のふるまい。 2章「真空―地球のそとの世界」:どれぐらいカラッポな空間を実現できるか。星という〈粒〉が飛びかう宇宙。宇宙はひろがりつつある? 3章「気体の凝結」:バラバラの状態にある原子や分子が寄り集まって液体や固体をつくりだす過程。 4章「結晶」:多くの固体は結晶だ。そのなかでの原子のならび具合は? 5章「原子―物質を組み立てる要素」:原子核のまわりをまわる電子のふるまいは太陽のまわりをまわる惑星の動きほど単純ではない。しかし私たちはこの微視の世界を律する法則を見ぬいた。 6章「固体のなかの電子」:固体のなかでの電子の状態によってその固体の性質がきまる。それをうまく利用するとトランジスターもつくれる。”

特に第3章での、大気力学~雲物理~降水過程に至るまでの詳細な解説を話の「枕」にしてそこからすかさず真空蒸着の話題に繋げて行く件(くだり)などは、まさに「至芸」の域にまで高められた名講義の実況を聴いている様な臨場感。

おかげで第4章での固体結晶の話題への移行も実にスムーズに感じられ、それ以降のやや高度な展開においても“核となるイメージ”がブレないので、一息に読み切ることが出来ました。

久々に名著に出合い名講義に触れ、その薫陶に酔いしれた思いです。