蒼風閑語

ll_bluewind_llのひねもすのたりのたり

(麦<豆<米)蝉

さて今日は何の日・・・とカレンダーを眺めると、7月3日は旧暦の6月1日となっています。

各地で梅雨も明け始めた事だしちょうど良いタイミングなので、今月も『百姓伝記』を引用しておくことにしましょう。例によって“原文”の後に(拙訳)という形です。

 “六月大暑となる。大火(たいか)西にながれてあつし。また冷風はじめて吹。白露はじめて草木に置。なすび・さゝげのさかりとなる。先麦蝉(むぎぜみ)といひて、とつとちいさきせみなき初め、次にまめぜみといひて、又少(すこし)大きなるせみなき、米ぜみといひて大せみ山里におほくなく。やまもゝ・すもゝあからみ、民家に蝿多くいづる。土用に入、秋ちかし。夕立ちしげく、六月の終り也。”

 (旧暦6月には二十四節気の一つ「大暑」となる。アンタレスが西に傾いて暑さは厳しくなるが、一方で暑さに相対して涼味を感じる風が吹き始めたり、草木の葉に朝露が降(お)り初(そ)めたりするのもこの頃だ。茄子やささげ豆の盛りでもある。蝉(せみ)はまず最初に麦蝉と言ってとても小さな蝉が鳴き始め、次に豆蝉と言ってそれより少し大きい蝉が鳴き、続いて米蝉という大きな蝉が山里でたくさん鳴き始める。山桃や李(すもも)がほの赤く色付いて、家々で飛び交う蝿(はえ)の数も多くなって来る。夏土用に入ると暑さもここがピークで、これを過ぎれば後は少しずつ秋が近付いて来る。夕立が頻繁に降って6月も終わりだ。)

ちなみに『国語大辞典 第二版』(学習研究社)で【アンタレス】を引いてみると、“さそり座の首星。夏の夕方、南天に見える赤色の一等星。中国では「大火」と呼び、夏至の標準にした。”とありました。

それにしても夏の蝉を小さい方から順に「麦蝉」「豆蝉」「米蝉」と呼び慣わすとは知りませんでした。必ずしも同種の蝉を指すとは限らないので所謂“出世魚の改名”とはややニュアンスを異にするのでしょうが、徐々にグレードが上がって行く感じが何となく「それっぽく」て面白いですね。

(出典:岩波日本思想大系62『近世科学思想 上巻』より)