蒼風閑語

ll_bluewind_llのひねもすのたりのたり

風林火山

何となく急いで読むべき本では無い気がして、時間的な余裕のある時だけに紐解いてユックリと読み進めていた、井上靖氏の時代小説『風林火山』を読了しました。

数年前に放映された大河ドラマの原作ともなっていたものですが、この作品自体は規模から言えば「中編」の範疇に属するもの。

しかしひとたび読み始めるとその内容の“圧倒的ともいえる密度の濃さ”に引き込まれ、読み終えた時には本当に長い長い一大叙事詩を味わい尽くした様な心持ちになります。

文章の一つ一つが恐ろしく簡潔に研ぎ澄まされ、行間にすら緊張感が漲(みなぎ)っている様に感じられるのは、“筆なり”に惰性で書き流された部分が微塵も含まれていない事によるのでしょうか。

主人公である山本勘助が「八幡原の合戦」において討死するところで作品はふっつりと終わりを告げるのですが、不思議と読後感は爽やかでそのくせ妙に深い余韻だけが残ります。

ただ面白い歴史小説を味わい愉しんだという以上に、「何だか凄いものを読んだなぁ」という独特な感情を抱かせる、恐ろしく目の詰んだ世界観を持った作品でした。

短い中に巧みに長大さを孕ませるのも、大長編を一息に読ませてしまうのも、共に“名手の筆あってこそ”の偉業なのでしょうね。

風林火山;淀どの日記;後白河院 (日本歴史文学館)

風林火山;淀どの日記;後白河院 (日本歴史文学館)