蒼風閑語

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ドン・キホーテの独り言

スペイン語文学の翻訳で知られる木村榮一氏2001年の著作『ドン・キホーテの独り言』(岩波書店)を読了しました。

カバー折り返し部分に印刷されたリード文によれば、

 “16世紀以来大学都市として栄えるセルバンテスの生地、アルカラー・デ・エナーレス。由緒正しい当地の〈アルカラー大学〉に客員教授として赴任した著者がスペイン各地で見聞きした、笑撃的な話題のかずかず。騎士道小説を読みすぎたドン・キホーテのふるさとからの、「ふだん着のスペイン文化・文学案内」風エッセイ、全26篇。”

という事になるのですけれども、もちろん木村氏の書くものですからただ口当たりが良いだけの空疎なエッセイ集になる筈もなく、実にふくよかで趣きのある掌編集となっていました。

全体は大きく3つの部に分かれており、内訳はⅠ「ラ・マンチャのそよ風」、Ⅱ「ドン・キホーテのキッチン・テーブル」、Ⅲ「セルバンテス書店」というもの。

内容はⅠがスペインの風俗や国民性、Ⅱがアルカラー・デ・エナーレスのローカル・フード、Ⅲがスペイン及びラテン・アメリカ文学についての随想です。

どの部も面白く且つ読み応えがありましたが、意外な位に引き込まれてしまったのがⅡ部の「ドン・キホーテのキッチン・テーブル」でした。俎上にあげられているのは羊のリブ・ステーキとドライ・フルーツにチョコレートとコーヒー、それに蜂蜜。

個人的に、これらは古今の食にまつわるエッセイの中でも一二を争う出色の出来栄えだと思っています。これを読むと巷に溢れている「グルメ・ライター」の書くものが本当に味気なく思われて来る程。

ともあれ、どこから読んでも面白いしどの1編も読まずには済ませられない名エッセイ集ですので、図書館や古書店で見掛けたら是非とも手に取ってみて下さいませ。

ドン・キホーテの独り言

ドン・キホーテの独り言