蒼風閑語

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ヒルベルト空間と量子力学

“共立講座21世紀の数学”というシリーズに収められた数理物理の解説書として世評も高い、新井朝雄氏1997年の著作『ヒルベルト空間と量子力学』(共立出版)を読了しました。

全体の構成は、第1章「ヒルベルト空間」から始まって、第2章「ヒルベルト空間上の線型作用素」、第3章「作用素解析とスペクトル定理」、第4章「自己共役作用素の解析」、第5章「偏微分作用素の本質的自己共役性とスペクトル」、第6章「量子力学の数学的原理」、第7章「量子調和振動子」へという流れ。

第1章でヒルベルト空間論のアウトラインを概説した後は第5章まで、「完全正規直交系(C.O.N.S.)」を通底するキーワードに据えつつ「量子力学への数理」が新井氏独特のシャープな筆致で綴られて行きます。

全てを合わせても300ページに満たないコンパクトな作りではあるのですが、量子力学の理解に必要とされる数学的な事柄の内、重要なトピックは殆ど全て盛り込まれていると言っても良いのではないかと思います。

こういう優れた本に目を通す機会に恵まれると、ヤッパリ名著とされている書物には“名著たる由縁”がちゃんとあるのだなぁ・・・という事が、ことさら強く感じられるのでした。

ヒルベルト空間と量子力学 改訂増補版 (共立講座 21世紀の数学 16)

ヒルベルト空間と量子力学 改訂増補版 (共立講座 21世紀の数学 16)