蒼風閑語

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世界中を「南極」にしよう

柴田鉄治氏2007年の著作『世界中を「南極」にしよう』(集英社新書)を読了しました。

ちょうど3ヶ月程前には同氏が2003年に上梓なさった『新聞記者という仕事』(集英社新書)を読んでいたので、引き続いて本書を手にしたのは自然といえば自然な成り行きです。

・・・というより、私が柴田氏のことを知ったのも元を正せば『朝日新聞』紙上での南極に関する記事だったのですから、内容的にはむしろ本書の方が氏のパブリック・イメージに沿うものだったのかな、という気もしています。

さて、著者の本書執筆に至る背景をカバーの折り返し部分に載っていたリード文から引用しておくと、

一九六五年、三〇歳の時、朝日新聞記者として第7次観測隊に同行した著者が、南極観測五〇周年を前にした二〇〇五年、再び南極の地を訪れる。そして、その地で七一歳の誕生日を迎えた著者が四〇年ぶりの白い大陸に、何を見たのか?

という事になります。朝日新聞社を定年退職後70歳になってからの南極大陸再訪というのですから、その不屈のジャーナリスト魂と弛(たゆ)まぬ行動力にはただただ頭(こうべ)を垂れるしかありません。

本書は大きく8つの章から成っており、内訳は第一章「氷海に入る」、第二章「南極と私」、第三章「南極再訪を思い立つまで」、第四章「南極で体験したこと」、第五章「南極で出会った人たち」、第六章「これからの南極観測  私の提言」、第七章「南極観測の科学的意義」、第八章「世界中を南極にしよう  私の夢」という流れ。

この内第三章までが全体の3分の1程を費やした南極再訪に至るまでの顛末、実際の南極レポートは第四章に短くまとめ、第五章で女性隊員の活躍と期待並びに国際的な人的交流の重要性を、そして第八章までを使って著者なりの提言と夢を語ります。

今は極地に関する楽しい読み物や判り易い手引書も多数出版されていますけれども、南極というものの社会的な位置付けや在り方を考えてみる上での一つの「よすが」として、また入門者が最初に手に取る一冊としても推薦に値するのではないかと思っています。

もし本書中の白眉は?と問われる機会があれば、柴田氏のジャーナリストとしての面目躍如とも言えそうな第六章と第八章を推しておきたいな・・・などと、読後改めて表紙を眺めながら考えていた事を申し添えておきましょう。

世界中を「南極」にしよう (集英社新書)

世界中を「南極」にしよう (集英社新書)