蒼風閑語

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南極越冬隊 タロジロの真実

北村泰一氏2007年の著作『南極越冬隊 タロジロの真実』(小学館文庫)を読了しました。

去る8月25日、吉祥寺の武蔵野公会堂で開催された南極講演会の会場で販売されていたのですが、当日はアッという間に売り切れてしまい後日改めて新刊書店で購入したもの。

1957年の第1次と翌々年の第3次南極越冬隊に参加なさった北村氏による、科学者らしい生真面目さを感じさせる素朴で簡潔な筆致は、同時に巧まぬユーモアと独特のサーヴィス精神にも満ちており、凡そ読者を飽きさせるという事がありません。

全体は大きく8つの章に分かれており内訳は、第一章「旅立ち~いざ、南極へ」、第二章「越冬開始」、第三章「犬と隊員たち」、第四章」「厳寒期のカエル島へ」、第五章「ボツンヌーテン犬ゾリ行」、第六章「オラフ海岸の夏の旅」、第七章「宗谷の苦闘、犬たちの悲劇」、そして最後が「終章」という流れ。

本書の読みどころは?と尋ねられれば全部です!と答えるのが最も簡単かつ正しいのでしょうが、敢えて挙げておくなら第二章の最後、第三章の最初、第四章の円丘氷山及びヒップのクマのエピソード、第五章の後半、第六章の犬の靴下の話、あたりでしょうか。

さて、本書を読み終えて改めて感じずにいられなかったのは、「訥々とした筆致で事実を淡々と述べる」手法がルポルタージュという表現形式を成功させる上でいかに効果的であるか・・・という事でした。

その観点から言えば、個人的にはジャーナリスト本多勝一氏の手によるいわゆる「辺境三部作」、『カナダ・エスキモー』『ニューギニア高地人』『アラビア遊牧民』にも比肩する傑作ルポではないかと思っています。

本書に引き続いては、国立極地研究所が編集にあたった1988年のシリーズ “南極の科学” から、第3巻の『気象』(古今書院)に取り掛かる予定です。

南極越冬隊 タロジロの真実 (小学館文庫)

南極越冬隊 タロジロの真実 (小学館文庫)