蒼風閑語

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錆鮎

朝晩と言わず日中の空気にも深まり行く秋を感じる今日この頃。TVのニュース番組や新聞記事等でも“秋の風物詩”や“秋の味覚”を伝えるものが増えて来た様です。

では、もうすっかりお馴染みとなっている『百姓伝記』から「旧暦九月」の項を引用・口語訳しておく事にしましょう。例によって“原文”の後に〔拙訳〕という形です。

 “九月秋至となり、草木の葉黄ばむ。水かれとなる。諸虫土中に入、声すくなし。霜降(ふり)、寒風起る。菊の花さき、粟・ゑのみ、あからむ。鮭・鮎さびれ、川々より海にくだる。九月の終り三々花最中とひらく。水中の川ちさに花さきて、秋の末土用に入て、初冬ちかし。麦まく事をいそぐ。”

 〔旧暦9月となれば秋もたけなわとなり、じきに草木の紅葉・黄葉も始まる。水かれとなる。種々の虫が土中に潜り始め、鳴く声を聞く事も段々と少なくなって来る。霜が降りて冷たい風が吹く。菊の花が咲いて粟(アワ)や荏(エ)の実は赤く色付き始める。鮭(サケ)や鮎(アユ)は産卵を終え川から海へと下って行く。月末頃になると山茶花サザンカ)がここぞと花開く。水中の川ちさに花が咲く頃には秋土用の入りとなって冬の足音が聞こえ始める。麦を蒔くにはここが急ぎどころだ。〕

旧暦7月が「立秋」続く8月が「中秋」と来て、じゃあ9月は?と問えば「秋至」となるのが面白いところ。「夏至」や「冬至」に合わせて、ひとつの“秋のピーク”を表わしたものでしょうか。

“水かれ”は〔水枯れ〕かな?でも決して雨は少なくない時節だと思うのですけれども・・・残念ながらここは不明です。

それにしても「サケやアユがさびれる」とは何じゃらほいという感じですが、『古語大辞典』(小学館)を紐解いてみるとこんな見出し語・語釈がありました。

【さび‐あゆ】 錆鮎

衰弱した秋の鮎。産卵後肌が渋くさびた鉄のような色になり、見た目にも寂しい感じになったもの。落ち鮎。下り鮎。(秋の季語)

また最後から2番目の一文に現われる“川ちさ”というのも残念ながら。「ちさ」といえば食用にする「萵苣(チシャ)」の事かと推測するのですが、もしかすると“川ちさ”と称される水草の類いがあるのかも知れません。

(出典:岩波日本思想大系62.『近世科学思想 上巻』より)