ジョン・ロード
例えばディープ・パープルの『ライヴ・イン・ジャパン』を聴いている時。
これはもう長年の習い性というものでしょうが、ボンヤリしていても一番耳に入って来るのはイアン・ペイスのドラミングです。
同じドラマーの端くれとして、音を聴いていれば今ペイス氏が何をしているかはおおよそ見当がつくので、自然と細部までハッキリと聞き取れる・・・という訳です。
次に気になるのは何と言ってもリッチー・ブラックモアのギター・ワークでしょうか。ミックス的に最大音量で収められているということもありますが、やはりその激しいプレイには耳を惹きつけられます。
そしてそのリッチーと全く同等の比重でもって、否が応にも耳を奪われてしまうのがジョン・ロードのキーボード・プレイだったのです。
ひとたびインター・プレイの応酬となると互いに相手を力でねじ伏せる様な白熱ぶりになるのですが、最終的にはアンサンブルを重視して相手に少しだけ花を持たせる・・・。
パット・メセニーに対するライル・メイズの様な、ジャン=ジャック・カントロフに対するジャック・ルヴィエの様な、マリア・カラスに対するジュゼッペ・ディ・ステファノの様な“対決しながらも支え合う”、そんな関係でしょうか。
バンドの中ではロック・キーボードの基本形とも言えるスリリングなプレイ・フォーマットを完成させた功労者でしたが、ソロ・ワークとなると一転してクラシカル・ミュージック的な展開にこだわりを見せていたのも特徴的でした。
ライヴ・パフォーマンスでのインプロヴィゼーションにおいてチラチラと顔を見せるクラシック音楽の断片フレーズが、私達が古典音楽に対して抱きがちな“敷居の高さ”を随分と緩和していたのは疑いのないところだと思います。
ロック・ミュージックのフィールドで不動の地位を築きつつ、クラシカル・ミュージックへの架橋にも意を尽くしたキーボード・プレイヤー、ジョン・ダグラス・ロード氏。享年71歳。
ここ極東に住まう一ファンとして、彼の残してくれた功績に深く感謝すると共に、謹んで哀悼の意を表したいと思います。