蒼風閑語

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危機の科学

20日ばかり前に神保町で買い求めていた、高木仁三郎氏1981年の著作『危機の科学』(朝日選書)を読了しました。

執筆時点から1970年代の科学界に起こった出来事を振り返り“危機感をもって”総括した、かなり硬質な内容が特徴的な一冊でした。

全体は大きく5つのパートに分かれており、内訳は序章「バベルの塔と現代」、第一章「七〇年代の宇宙科学」、第二章「七〇年代の原子力」、第三章「見えはじめた分岐」、第四章「危機の科学」、第五章「批判から変革へ」という流れ。

特に第二章と第四章については高木氏の専門分野であった原子力についての論考であり、先見性に満ちた論旨はまるで現在の状況を見越していらしたかの様。

一方で著者の主観的な部分が色濃く表出し、後年氏が提唱した「市民科学者」としての視点を如実に示しているのが序章と第五章・・・と言えるでしょうか。

第四部については、先に読み終えた朝永振一郎著/江沢洋編『プロメテウスの火』(みすず書房)の第Ⅲ部「科学技術と国策」並びに「解説―背景おぼえ書き」を補完する意味で、より多くの方に目を通して頂きたい一節だと思っています。

 “本書は、動きつつある過渡的な状況のなかで書かれた。それゆえに過渡的な性格をもったものである。科学史的な十分な事実関係の裏づけよりも、現在の進行を動的にとらえ仮説的ではあれ、われわれを待ち受ける未来への洞察に力点をおくという問題意識が下地になっている。現代のバベルの塔が自己崩壊の破局を迎えるほど高くなるまでに、もはやあまり多くの時を残していないように思えるからである。” (序章「バベルの塔と現代」より)