蒼風閑語

ll_bluewind_llのひねもすのたりのたり

超伝導

中嶋貞雄氏1988年の著作『超伝導』(岩波新書)を読了しました。

1986年の末頃から翌年に掛けて、世界的な規模で社会を席巻した「超伝導ブーム」を受けて執筆されたという一冊。

そんな時代背景もあってか、当時の「熱さ」とか「勢い」みたいなものがそのまま封じ込められたような筆致で、ひとたび読み始めると最後のページまで一気に読み終える事が出来ました。

とはいえ、そこはさすがにあの“岩波講座現代物理学の基礎”所収『物性Ⅱ』の執筆者のお一人でもあった中嶋氏、記述は明晰にして簡潔で論旨に澱みというものがありません。

物性物理学の理論と応用の最先端を語りながら読味が実にスムーズなのは、やはり当代随一の研究者が、まるで若い学生に講義をする様に書き綴った点にこそ多くを負っているのかもしれません。

もちろん日進月歩の業界のこと、既に30年近く前に書かれた本書が情報として些か古めかしいものになっている点は否めないのですが、物性論の概要と基礎知識を物理学の発展史に沿って知るには今もって好適な手引書であると言えます。

本書で「超伝導」という現象のアウトラインを概観した上で最近の刊行物やネット等で最新情報を補足すると、新旧をバランス良く取り混ぜた効率的な学習となるのではないでしょうか。

もし興味を持たれた方がいらっしゃいましたら、図書館や古書店などで探してみて下さいませ。

超伝導 (岩波新書)

超伝導 (岩波新書)