蒼風閑語

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シークレット・レース

タイラー・ハミルトン&ダニエル・コイル著/児島修氏の訳による『シークレット・レース ― ツール・ド・フランスの知られざる内幕』(小学館文庫)を読了しました。

ランス・アームストロングに影響を受けて自転車ロード・レースに興味を持ち始め、今は幻となってしまった「ツール・ド・フランス7連覇」の偉業に酔いしれていた身としては、いくぶん複雑な気持ちで手にした一冊でした。

しかしひとたび読み始めると本当に興味深い内容とシンプルな語り口に引き込まれ、文庫とはいえ550ページというボリュームながら4日程で読み上げてしまいました。

下手をすると単なる暴露本になってしまいそうなテーマであるにもかかわらず、飾らない淡々とした筆致とこなれた訳業が相まってかとても爽やかな読後感。読み終えた途端にまた最初から読み返したくなる様な不思議な魅力があります。

それにしても、ロード・レースとドーピングの間にある分かち難い関係は、私達が漠然と想像していたよりも遥かに深くまた日常的なものとしてあった様です。

プロのレーサーとして第一線で活躍する以上は避けて通れない「最低限の努力」の一つとして認識され、それをやらないでいる事はそのまま「レーサーとして評価されずチームからも必要とされなくなる」事に直結する・・・そんな状況。

しかもドーピングはチーム全体で計画的にそれこそまるでトレーニングの一環の様に行われるため、チームからドーピングを施されないのはまだチームから認められていない(つまりまだ一流ではない)証拠だと思い込んでしまう哀しさ。

そして何より恐いのは、ドーピングの効果で劇的に向上する運動のクォリティを一度でも経験してしまうと、それを使わないでパフォーマンスの質を落とす事に耐えられなくなってしまう、つまりひとたび足を踏み入れると決して後戻りが出来ないところでしょうか。

私が、あなたが、もしもハミルトン氏と同じ立場にあったとしたら、私は、あなたは、どうするだろうどうするべきなのだろう・・・そんな重くてしかも普遍的な問い掛けを心に残しつつ、でも読み終えると間違いなく自転車に乗りたくなる。

・・・何だか上手く纏められなくて歯痒いばかりなのですが、自転車やロード・レースの事を知らなくても一つのヒューマン・ドラマとして面白く読めると思いますので、是非是非御一読を。

シークレット・レース―ツール・ド・フランスの知られざる内幕 (小学館文庫)

シークレット・レース―ツール・ド・フランスの知られざる内幕 (小学館文庫)