蒼風閑語

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俳句の宇宙

長谷川櫂氏1989年の著作を文庫化した『俳句の宇宙』(中公文庫)を読了しました。

全体は大きく7つの章に分かれており、内訳は序章「自然について」、第一章「季語について」、第二章「俳句性について」、第三章「「いきおい」について」、第四章「間について」、第五章「忌日について」、第六章「都市について」、第七章「宇宙について」という流れ。

ここまでが本編で続いて13ページに渡る「注」、文庫版と単行本それぞれの「あとがき」、そして30ページに及ぶ三浦雅士氏の筆による「解説」、更に主だった人名についての略伝と索引・・・と実に手厚い構成となっていました。

本書のテーマは巻頭の「序章」第3節で以下の様に明言されます。

“俳句は「場」の文芸である。そして、俳句の言葉は「共通の場」がある限り、いきいきと動くが、それがなくなると通じなくなる。これは昔の句ばかりでなく、今の俳句も同じだ。”

そして以降7つの章を使って俳句にとっての「場」の意味するところを様々な角度から論じて行くのですが、これが豊富かつ適切な句の引用によって非常に明快な論述となっていました。

また学術的になり過ぎる部分や難解と思われる部分は巧みに回避されており、単純に「俳句の入門書」とするにも適当な一冊と言えそうです。

読み進む程に芭蕉の句集を手に取ってみたくなる、「蕉門への手引書」にもなっているのがありがたいところ。長谷川氏の芭蕉へ向ける真っ直ぐな「思い」が伝わる好著だと思います。

俳句の宇宙 (中公文庫)

俳句の宇宙 (中公文庫)