蒼風閑語

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〈辞書屋〉列伝

田澤耕氏が今年の1月に上梓なさった近著『〈辞書屋〉列伝 ― 言葉に憑かれた人びと』(中公新書)を読了しました。

古今東西問わず、歴史的価値のある「偉大な辞典」の編纂や執筆に携わった人々を、「職人」と「商人」の才覚を併せ持つ文化人という視点で敢えて〈辞書屋〉と名付けたセンスにまず脱帽。

本書でセレクトされている〈辞書屋〉の面々はこんな顔ぶれです。

第一章「OED(『オックスフォード英語辞典』)―ジェームズ・マレー」、第二章「『ヘブライ語大辞典』―ベン・イェフダ―」、第三章「『カタルーニャ語辞典―プンペウ・ファブラ』『カタルーニャ語バレンシア語・バレアルス語辞典』―アントニ・マリア・アルクベー」、第四章「『言海』―大槻文彦」、第五章「ウェブスターとヘボン」、第六章「『西日辞典』―照井亮次郎と村井二郎」、第七章「『スペイン語用法辞典』―マリア・モリネール」・・・。

それに終章で御自身の労作『カタルーニャ語辞典』『日本語カタルーニャ語辞典』『カタルーニャ語小辞典』を加えて、何ともヴァラエティに富んだ「〈辞書屋〉カタログ」となっていました。

どのエピソードもサブタイトルにある通り言葉への「憑かれ」っぷりが凄まじくて思わず惹き込まれてしまうのですが、全ての〈辞書屋〉さんに共通しているのは、本人の資質と力量に加えて強力な庇護者や献身的な協力者の存在があった・・・という事でしょうか。

今そこにある辞書も全ては「人」が作っているのだ・・・という、あまりに当たり前過ぎて普段忘れがちな事実を、改めて認識させて貰える稀有な一冊でした。

〈辞書屋〉列伝 - 言葉に憑かれた人びと (中公新書)