蒼風閑語

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二つの「もがり」

第60回カンヌ国際映画祭での河瀬直美監督のグランプリ受賞のニュースに接して、最初にその「殯(もがり)の森」というタイトルを耳にした時まず頭に浮かんだのは、木々の生い茂る森の中を冷たい木枯らしが吹抜けているイメージでした。

「もがり」という音から冬強風に吹かれた電線などが立てる「虎落(もがり)笛」を思い出しての連想だったのですが、念の為に辞書を引いてみるとどうやらまるっきり別のコトバの様です。

「虎落(もがり)」は元々切った竹を筋違いに組み合わせて拵えた竹垣や物干しなどを指し、それに風が当たってひゅうひゅうと笛の様な音を立てるのを「虎落笛(もがりぶえ)」と呼んだもので、冬の季語としても比較的よく知られるところです。

一方の「殯(もがり)」は『国語大辞典 第二版』(学習研究社)によると、「上代、貴人の本葬をする前、死体を仮に納めて祭ること。また、その場所(儀式)。あらき。」とされていたのですが、更に漢和字典を開いてみると少し面白い語釈が載っていました。

【殯】 ヒン

解字 : 「歹(死体)+賓(お客、そばにいるあいて)」の会意兼形声文字で、死人をそばにいる客として、しばらく身辺に安置すること。

学習研究社『漢和大字典』より抜粋)

なるほど、漢字の意味が解ると何となく腑に落ちた気がしてきました。何とも暗示的なタイトル、映画本編への期待が高まります。

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