アクロス・ザ・リヴァ―
「逃げようよあんた。」
「この国境から何度逃げたか知れやしない。」
「行ったり来たりしてみても、ここに国境がある限り同じことだ。」
「だったらさ、ねえだったらさ。」
「なんだよ。」
「川の向こうへ逃げようよ。」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「見えないくらい遠いよ。」
「しかも真冬だ。」
「しかも凍てつく真夜中だ。」
「しかも俺なんて泳げないときてる。」
「けれど、真冬の凍てつく真夜中の、そのうえ遠くて深い川だとしても、ここよりはましだろ。」
(野田秀樹作:戯曲『ローリング・ストーン』より抜粋)