蒼風閑語

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原子理論と自然記述

一昨日に御紹介した『ミトコンドリアが進化を決めた』(みすず書房)とほぼ同じ時期に読み始めていた、ニールス・ボーア著/井上健訳『原子理論と自然記述』(みすず書房)を読了しました。

元々は1961年刊行の「原子理論と自然記述」と1958年刊の「原子物理学と人間の知識」及び1963年の「続・原子物理学と人間の知識」という、別々に発刊された3冊の書籍を一つに合本したもの。

ボーア氏自身は巻頭の「緒言」で本書を“エッセイ集”と呼んでおり、翻訳をなさった井上氏も「訳者あとがき」の中でその様に書いておられますが、現在の感覚で言えばこれはもう立派な“講演集”であり“論説集”です。

一般にボーア氏の論文については「難解」「長過ぎる」「意味不明」など散々な評価も時折目にするのですが、本書についてはやや長めのセンテンスは散見されるものの、例えば同時代のハイゼンベルク氏の諸作品などに比べて“特別に冗長かつ散漫な”文章であるとは感じませんでした。

ただ、読んでいてとても面白かったのは「量子の要請と原子理論の最近の発展」、「原子物理学における認識論的諸問題に関するアインシュタインとの討論」、「一九五八年度ラザフォード記念講演―核科学の創始者の思い出と彼の仕事に基づくいくつかの発展の回想―」という3篇。

実はこれらはどれも、タイトル同様“とても長い文章”ばかり。中にはそれなりに短いものも収められてはいるのですが、どちらかと言えばどれも“イントロだけで終わってしまった”感じが漂っているのですねぇ・・・。

小ぢんまりとまとまった文章では溢れ出る思考を表現し切れないボーア氏にとっては、まさにこの長さこそが「面目躍如」と言うべき魅力となっているのかも知れません。

原子理論と自然記述 新装版

原子理論と自然記述 新装版