蒼風閑語

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朗読者

先週末、とある古書店の均一棚で買い求めた、ベルンハルト・シュリンク著/松永美穂訳『朗読者』(新潮文庫)を読了しました。

全体は大きく三部構成になっており、第1部が話の語り手である“ぼく”とヒロインである“ハンナ”との出会いから突然の別れまで。第2部が“ぼく”と“ハンナ”との法廷での衝撃的な再会。第3部が服役した“ハンナ”と“ぼく”との間に生まれた新たな交流とその結末。

文庫本で約250ページという大して長くもない中編小説なのですが、読後に湧き起こった充足感たるや、まるで大長編の一代記を読み終えたか、若しくはかなり長尺の大作映画でも観終えた様でした。

第1部を読んでいる間は歳の離れたカップルのやや風変わりな関係が比較的淡々とした筆致で語られるので、このまま最後まで読み通すべきか少しばかり迷っていたのですが、第2部に入ると俄かに話がドラマティックな展開を見せます。

そして第3部はおよそ60ページをかけた本書のクライマックスであり、また長い長いゆっくりとしたエンディングの章でもあるのですが、ここで“ぼく”のとった行為も、“ハンナ”の18年をかけた営為も、あまりに貴くてそれゆえに突然訪れる結末が切ないのです。

巻末の「訳者あとがき」には“この本を二度読むように勧めている”とあるのですが、これはもう全く異論の無いところ。

あまり時間を置かずに再読し、もし数年後か数十年後に改めて手に取る機会に恵まれるとするならば、この本の読書体験としては最高なのだと思います。

朗読者 (新潮文庫)

朗読者 (新潮文庫)