蒼風閑語

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電気羊の夢

せっかく“読書の秋”と呼べそうな空気になったのだから、たまにはちゃんとした「おはなし」を愉しみましょうか・・・と選んでみた、フィリップ・K・ディック著/浅倉久志訳による『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』(ハヤカワ文庫)を読了しました。

原題を "Do Androids Dream of Electric Sheep ?" というこの作品は映画『ブレードランナー』の原作として、SFファンのみならず一般の方や映画好きの方にも広く知られるところとなっています。

「残念」なのか「幸い」なのか映画版の方は未だ観る機会を得ていないので、印象としては“完全に真っ白な状態”から読み始める事になったのですが、ひとたび作品の中に入り込んでしまうともう容易には止められない面白さでした。

ストーリーの組み立ての上手さもさる事ながら、登場人物のキャラクター設定の巧みさには思わず舌を巻いてしまいました。全ての登場人物が恐ろしくリアルな存在感を持っており、一人一人の動きやセリフにはちゃんと意味が与えられています。

どのキャラクターもそれぞれに魅力的なのですが、最も感情移入してしまったのは、放射能の影響で特殊者(スペシャル)と呼ばれる階層に振り分けられ、被差別的な社会生活を余儀なくされているジョン・イジドアという若者。

彼のピュアな心のありようと「一途」としか言い様の無い行動は、それが絶対に報われないであろう状況の中にあって、逆に“だからこそ”最も尊く、また最も人間らしいものとして描かれています。

恥ずかしながらイジドアのあまりのいじらしさに、一度ならず目頭が熱くなってしまった事を告白しておきましょう。

本当に久々に読んだSF作品でしたが、長くつき合えそうな一冊との出逢いになりました。

アンドロイドは電気羊の夢を見るか? (ハヤカワ文庫 SF (229))

アンドロイドは電気羊の夢を見るか? (ハヤカワ文庫 SF (229))