オン・ザ・ビーチ
佐藤龍雄氏の訳による日本語版『渚にて』(東京創元社)を読み終えてから取り組んでいた、原作者 Nevil Shute によるオリジナル版、 "On the Beach" (Ballantine Books) を読了しました。
翻訳のイメージがまだ鮮明に残っていたことも手伝ったのでしょうが、さすがにロング&ベストセラーになるだけあってとても読み易く平易な英文で、読み進める上でストレスを感じる所が全くと言って良い程ありませんでした。
ある種の静謐さに彩られた哀しみと淡々とした筆致が産み出す独特の明晰さも、日本語版で味わったものとほぼ同じ感触です。
改めて佐藤氏の訳業の的確さに感じ入ると共に、原著者ネヴィル・シュートの魅力についても再度発見する事が出来たのでした。
それにしてもこういった経験をする度にいつも思うのは、最低限の英語読解力さえ身に付けておけば、読書の「幅」というか「選択肢」みたいなものが、かなり飛躍的なレヴェルで広がるのだなぁという事実。
例えば本作品については井上勇氏による旧訳と佐藤氏の新訳、それに今回の原書と3種類のテキストを愉しんだわけで、これだけで読書体験としてはかなり充実したものと言えます。
加えて1959年に製作され現在はDVD化されているシネマ版も鑑賞しているので、一つの作品を4つの異なるヴァージョンで“味わい尽くした”といって良いかも知れません。
もちろんこれらは原作に相応の「力」があって初めて可能なこと。そういう意味では“極めて稀有な作品”に出逢えたのだと思っているところです。
On the Beach (Vintage Classics)
- 作者: Nevil Shute
- 出版社/メーカー: Vintage Classics
- 発売日: 2009/10/19
- メディア: ペーパーバック
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