蒼風閑語

ll_bluewind_llのひねもすのたりのたり

装丁と文章と

数日前からナイト・キャップがわりに布団の中で読み進めているのが、野上彌生子氏1945年(昭和二十年)の作品『山荘記』です。

“野上彌生子全集:第一期”(岩波書店)の第二十巻に収められている一編で、内容は1944年11月3日から翌年11月3日までの北軽井沢山荘での暮らしを綴った日記。

もちろん床についてから眠りに落ちるまでの事なので読むスピードは遅々としたものですが、この数十分間がここ最近一番のジョイフル・タイムとなっています。

まずこの全集の特徴として、シンプルな装丁の美しさが挙げられます。背側の濃紺と小口側のクリーム色にきっぱりと色分けされた表紙。全集名と巻数だけが、落ち着きのある渋い金文字で刻まれている背表紙。

何ともスッキリとした直線的なデザインでどこに置いても違和感が無いのに、何故だか見過ごす事の出来ないシッカリとした存在感もちゃんと持っている。

当然見る人によって好き嫌いはあるのでしょうけれども、個人的な「装丁かくあるべし」という理想のカタチにかなり近いものなのです。

そして野上氏の文章といえばこの装丁から受けるものとほぼ同じイメージ。端正で無駄のない文章なのにその感触は柔軟で溌剌としており、しかも読後には何かしら心に残るものがある。

装丁・文章ともにピッタリと肌に合った全集の一冊を就寝前のひと時に味わうシアワセ・・・他のものにはちょっと置き換え様の無い最上の愉しみのひとつです。