蒼風閑語

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翻訳に遊ぶ

木村榮一氏がこの4月に上梓なさった近刊『翻訳に遊ぶ』(岩波書店)を読了しました。

スペイン語圏における文学作品の翻訳で広く知られている木村氏が、自らの翻訳者としての半生や翻訳に関する心得などについて、軽い筆致で綴ったエッセイ集でした。

全体は比較的コンパクトな14の章に分かれており、前半の第6章までが半ば自伝エッセイ風とも言えるパート。

著者がスペイン語の翻訳に携わる事になった経緯が軽妙に語られているのですが、個性的な父親との会話や厳しくも温かい教師の言葉がとても印象的でした。

一方後半の第7章から最終章までは、木村氏がこれまでのキャリアの中で培って来られた“翻訳の心得”を平易に語ったパート。

こちらではスペイン語の日本語翻訳における方法論や心構えを、実例を挙げたり他書からの引用を用いながら、まさに“噛んで含める様に”説いて下さいます。

一般的で親しみ易い自伝エッセイとやや専門的な香りのする翻訳エッセイを巧みにブレンドした、ファンにとっては何とも堪えられない「ザ・木村榮一ワールド」になっているのではないかと思いました。

引き続いては同氏による作品論集『ラテンアメリカ十大小説』(岩波新書)にも目を通してみたいところです。

翻訳に遊ぶ

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