蒼風閑語

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せどり男爵数奇譚

2週間ばかり前に神保町の古書店で買い求めていた、梶山季之氏1974年の著作『せどり男爵数奇譚』(ちくま文庫)を読了しました。

著名な雑誌記者としても広く知られていた梶山氏が綴った、古書籍や古書店や古書マニアをモチーフにした不思議な味わいの短編を集めた連作集。

全体で6つのエピソードが収められているのですが、後になるほど記述がコアなものになって内容的にも危険度が増して行きます。

本書のすべてのストーリーは基本的に、書き手である「私」が「せどり男爵」こと笠井菊哉氏によって語られる奇譚に耳を傾ける、という形式で進みます。

最初は他愛のない話から始まったものが、話がディープなところへハマり込んで行くに従って「私」自身も“せどり男爵とその語り”にすっかり魅入られてしまい、そして最終話ではついに・・・。

本書の帯や裏カバーのリード文には「傑作ミステリー」と紹介されていましたが、実際の読後感はむしろ“ミステリーとホラーのテイストが程良く利いたファンタジー”といった感触でした。

巷では「電子書籍元年」などと騒がれている昨今、書籍というものが本来持っている“何か象徴的な意味合い”みたいなものを改めて考えてみたくなる・・・。

今こそ読んで面白く、かつ意義深い一冊ではないかと思います。

せどり男爵数奇譚 (ちくま文庫)

せどり男爵数奇譚 (ちくま文庫)