蒼風閑語

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プロメテウスの火

7月の「東京国際ブックフェア2012」で買い求めていた、朝永振一郎著/江沢洋編『プロメテウスの火』(みすず書房)を読了しました。

同出版社から刊行されている“朝永振一郎著作集”の中から、原子力に関する重要な著述をセレクトし、巻末に江沢氏が詳細な解説と年譜を書き加えたという構成です。

全体は大きく3つの部に分かれており、まず第Ⅰ部が「プロメテウスの火」、続く第Ⅱ部が「原子力と科学者」、そして第Ⅲ部が「科学技術と国策」という流れ。

この内の第Ⅰ部と第Ⅱ部が朝永氏の著述からのアンソロジー、第Ⅲ部が「日本の原子力をどう進めるか」「日本の原子力はどこまで来たか」「科学技術振興と科学の役割」という3つの対談からのセレクションとなっていました。

原子力開発がその黎明期からずっと抱えて来た、そして現在も抱え続けている問題とその根底に横たわるものを再度俯瞰するにあたって、これ程シンプルで見通しの良いテキストは実際そう多くはありません。

第Ⅰ部と第Ⅱ部の重要性についてはここで改めて言うまでもありませんが、本書において白眉というべきなのは、やはり第Ⅲ部に収録された対談と巻末に置かれた江沢氏による「解説 ― 背景おぼえ書き」ではないでしょうか。

特に第Ⅲ部の対談は始めの2本が1954年、終わりの1本が1959年に収録されたものなのですが、この5年という時を挟んで行われた対談における大きな「落差」は、ある種のショッキングさすら感じさせるものとなっています。

安易に「こうしなさい」と断定する様な性質の本ではありませんが、素直に真摯に読み込めば自ずと進むべき道へのヒントが見えてくる・・・そんな一冊ではないかと思います。

プロメテウスの火 (始まりの本)

プロメテウスの火 (始まりの本)