蒼風閑語

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「自己」と「非自己」の科学

多田富雄氏2001年の著作、『免疫・「自己」と「非自己」の科学』(NHKブックス)を読了しました。

買い求めたのは随分前の事になるのですが、書かれている内容が一般向きとはいえ結構難しくて、3分の1程読んだところで放り出していたのです。

それが少し前に本の山を整理していた時にふと手にし、改めて読み始めてみると何だか面白くて、そのままとうとう最後まで読み切ってしまったのでした。

と言っても、以前に比べてパーソナルな免疫学の知識が増えていたという訳では全然なく、今回はサブテキストとして書架の中から『ケイン生物学』(東京化学同人)を引っ張り出し、ちゃんと知的補足を受けながら読み進めた・・・ということです。

普段学びつけない分野だけあってどこを取っても新鮮だったのですが、特に第三章の「免疫という劇場」や第五章「私は誰?私のバーコード」辺りは、例え方が実に巧みで思わず膝を叩いてしまいます。

更に、第九章「拒否の病理としてのアレルギー」から第十章「自己免疫の恐怖」を経て第十一章「曖昧な「自己」」へと続く辺りの記述はとてもスリリングでページを繰る手が止まらない程でした。

免疫というシステムを物理的に理解しようとするとなかなか大変そうですが、ウンと簡略化されたモデルで現象だけを眺めてみると、こんなに興味深くて面白いものはありません。

例えて言えば、非常にかたくなに見えて状況が変わればものすごく柔軟、誠実さがウリで愚直一本やりかと思いきや、相手を懐柔して丸め込む老獪さもちゃんと持ち合わせている・・・そんなイメージ。

ただしこの「免疫学」、難解と言われる分野だけあって迂闊に踏み込むとたちまち敷居が高くなりそうな事は本書の記述からも明らか。ここはもう暫く一般向けに書かれた易しいテキストを愉しんでみたいなと思っているところです。

免疫・「自己」と「非自己」の科学 (NHKブックス)

免疫・「自己」と「非自己」の科学 (NHKブックス)