蒼風閑語

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科学者 寺田寅彦

先月の「神田古本まつり」で買い求めていた、宇田道隆氏の編著によるメモワール『科学者 寺田寅彦』(NHKブックス)を読了しました。

物理学者・教育者・随筆家・俳人寺田寅彦に師事しその薫陶を得た17人の科学者が、それぞれの抱く「寅彦像」を思いのままに書き下したコンピレーションです。

執筆者のお名前をズラリと列挙してみると、和達清夫竹内均・山口生知・高橋浩一郎・関戸彌太郎・畠山久尚・金原寿郎・中田金市・樋口敬二・玉野光男・田中信・三宅修三・伊東彊自・井上栄一・中野猿人・宇田道隆・矢島祐利・・・といった面々。

もちろん筆致や専門分野はそれぞれに異なっているのですが、全員の文章で一致しているのが「寺田先生の手を最もわずらわせ、最も世話になったのは自分である」という、兄弟が親を語るのにも似た強力な師弟愛でしょうか。

本書の至るところで、科学者としてはもちろん人間としても慕われる大きな存在としての寅彦像が、それこそ溢れ返らんばかりに語り尽くされています。

もちろん「時代が違うよ」と言ってしまえばそれまでの事なのでしょうけれども、それにしても昨今では期待しようもない思わず羨ましくなってしまう様な師弟関係では、あったのでした。

内容的には日本の科学史を探る上で興味深い記述なども多く、本書の価値を高めるのに一役買っているのですが、やや説明不足で難解なところも「無きにしもあらず」といったところ。

『理化学辞典』みたいなものを一冊傍らに置いて適宜参照しながら読み進めると、更に理解と興趣が深まるかも知れません。