蒼風閑語

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小惑星探査機はやぶさ物語

的川泰宣氏2010年の著作『小惑星探査機はやぶさ物語』(NHK出版生活人新書)を読了しました。

JAXA宇宙科学研究本部教授としてのみならず、対外協力室長も歴任なさっていたという的川氏ならではの臨場感溢れる「現場レポート」でした。

全体は大きく6つの章に分かれており、内訳は第1章「「はやぶさ」出発まで」、第2章「「はやぶさ」の性能と技術的目標」、第3章「打ち上げからイトカワ到着まで」、第4章「イトカワ着陸」、第5章「トラブル続きの帰還」、第6章「なぜ「はやぶさ」は成功したのか」、第7章「「はやぶさ」がくれたもの」という流れ。

第1章の冒頭にある“二〇一〇年六月一三日、「はやぶさ」が地球に帰ってくる日が来ました。”という書き出しで時間は一気に三年前に。そしてその瞬間から「はやぶさ」ワールドにのめり込んでいました。

およそ「気負い」とか「衒(てら)い」とかいったことどもから最も縁遠いと思われる訥々(とつとつ)とした語り口は、静かにしかし真っ直ぐに読む者の心へと入り込んで来る様で、文字通りアッという間に最後の1ページまでを読み終えてしまった感じです。

それにしても、単に「行って帰ってくるだけ」でも充分過ぎてお釣りが返ってくる位の成果なのに、イオンエンジン・自立誘導航法・小惑星のサンプル採取・地球スウィングバイ・再突入カプセル等々、目標とした実験項目をことごとく成功させた技術力は大変なもの。

しかもその高度なテクノロジーの結実として最終的な目標達成に至るまでのプロセスが、実に淡々と誰にも判る平易なコトバで語られているのがこれまたスゴイところです。

実際に現場にいらした当事者である筆者の「深い理解」があってこそ書き得た、真に貴重な一冊ではないかと思います。

小惑星探査機 はやぶさ物語 (生活人新書 330)

小惑星探査機 はやぶさ物語 (生活人新書 330)