蒼風閑語

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「ものづくり」の科学史

橋本毅彦氏がこの8月に上梓なさった近刊『「ものづくり」の科学史 ― 世界を変えた《標準革命》』(講談社学術文庫)を読了しました。

サブタイトルにもある通り工業規格品の「標準化」や「互換性」について、主として歴史的な見地からの概観と解説を試みた一冊でした。

鍵製造から始まって大砲や銃やネジ、旋盤やレンガ積み、紙のサイズや車の製造ライン、飛行機やコンテナ、キー配列や電気・・・本書で採り上げられるこれらのモノは全て、標準化され互換性を持たされた事によって一般化されています。

これらの標準化は当然ながら製造工程のオートメーション化へとつながる訳ですが、そこには常に古典的な熟練工との雇用者間の労働争議が不可欠なものとして存在していた様です。

そして互換性の無い2つ以上の方式が同時並行的に存在していれば、家庭用VTRのVHSとベータ方式がそうであった様にメーカー同士の規格化競争はつきもの。

そういったある種産業界における「軋轢の歴史」とも言える標準化のプロセスを、沢山のケースを例に見ながら俯瞰することが出来る内容となっていた様に思います。

また、互換性についてその可否を決めるのはほとんど常に現場の利用者であるのに対し、標準化については市場原理に基づくデファクト・スタンダードと公的機関によって決定されるデジューレ・スタンダードという2つの手法が存在する、というのも面白いところでした。

読後は身の回りにある工業製品を見る目が少しばかり変わって来そうな、「新たな視点」を与えてくれるユニークな一冊・・・と言えるのかも知れません。